ネギ先生と一緒に歩き始めて、しばらく経った。

「ねーねーネギ先生、いい加減目的地教えてよー」
「もしかして、道に迷ったですか?」
「あ、いえ、そんなことはないんですが……あっちの方ってゆーか……」


 早乙女さんとユエさんの二人から質問されて、ネギ先生がしどろもどろな答えを返す。結局あやふやなまま、ネギ先生はまた適当なところに足を向け始めた。
 さっきから同じようなやり取りを、もう三回は繰り返している。まさか『魔法使いのところへ親書を届けにいく』なんて言えるはずもないだろうし、ネギ先生が皆から離れるまで、このやり取りは続くのだろう。


 ……まぁ、あれはネギ先生の問題なのだから、それはそれとして。私も私の問題に対処しなければならない。


「あ、せっちゃんあれ美味しそうやなぁ。一緒に食べへん?」
「い、いえ、私あまりお腹は……」
「あー! せっちゃん見て見て! 木漏れ日が綺麗やでー」
「そ、そうですね……」


 今現在、私はお嬢様に引っ張りまわされている。何かの比喩表現という訳ではなく、文字通り私の手を掴んで、あっちこっちへ連れて行こうとするのだ。
 さっきまで土産物屋を物色していたかと思えば、次は和菓子屋へお菓子を試食しに行ったり、風景を眺めに行ったり……まるで目に付くもの全てを見て回ろうとしているような勢いだ。そのせいか、ネギ先生たちとは少し離れた位置を歩いている。
 もちろん、振りほどこうと思えばいくらでも振りほどけるが、それをさせない要因が二つあった。


 一つは、目の前のお嬢様の笑顔だ。今が楽しくて仕方ないということを隠しもせず表している、輝きそうな笑顔。麻帆良に来て以来向けられることのなかった満開の笑顔を、私の個人的な思いによって曇らせてしまうのは躊躇われた。


 もう一つは……いっそ憎たらしくも思える笑い声を上げながら、私たちの後ろからついて来ていた。


「はっはっは、こらこら木乃香殿。あまり引っ張りまわしては、二人して転んでしまうぞ」
「だいじょうぶやよー小次郎さん。なー、せっちゃん」
「はい……お気になさらず、小次郎さん」


 三歩ほどの距離を置いて、小次郎さんは私たちの―――正確には、お嬢様の行く先に同行していた。
 いつもの着物に着替えた小次郎さんは、やはり京都においても浮いており、周囲から奇異の視線を向けられている。例によって本人は全く気にしていないが、一緒にいる私たちにまで時折同じ視線が向けられるのだから、少しは気にかけてほしい。
 とはいえ小次郎さんは、ただ私たちの後についてきている訳ではない。その証拠に、小次郎さんの視線は一点に留まることはなく、常に周囲へ気を配っている。恐らく、研ぎ澄ました感覚でもって、気配も探っていることだろう。
 私も同じく、お嬢様に連れ回されながらも、不審人物がいないかをつぶさにチェックしていた。


 ……しかし、小次郎さんの本当の目的は、もう何となくだが分かっている。これと似た状況を、つい先日も経験しているからだ。
 機会があれば、問い詰めることにしよう。そう心に決めて、お嬢様に振り回されながら、小次郎さんが歩いていた辺りを振り返ると、


「……あれ?」


 さっきまでいたはずなのに、そこに小次郎さんの姿はなかった。
 気配が消えたことに、全く気づけなかった。せわしなく周囲に視線を巡らせて、その姿を探す。一体どこに行ったのだろう。


「ん? どしたん、せっちゃん」
「あ、はい……小次郎さんがいなくなってしまいました」
「ありゃ、本当やな」


 私の言葉で、お嬢様もようやく小次郎さんが消えたことに気づいたらしく、首を傾げていた。
 何の前触れもなくいなくなった小次郎さんによって、私の警戒心が一挙に高まった。
 まさか、あの呪術師の手の者が現れたのか。もしそうだとすれば、直ぐにネギ先生たちに合流した方がいいだろう。のどかさんを始め、多数の一般人がいれば、お嬢様に手出しもされ難いはずだし、ネギ先生と神楽坂さんの二人に力を借りることもできるからだ。


 しかし、さっきまで一緒にいた人を探しもせずに動いてしまえば、お嬢様に不審を与えてしまう。とりあえず、二人揃って辺りを見渡し、小次郎さんを探してみる。


「……」


 すると、小次郎さんは思いの他簡単に見つかった。
 ……そう、見つかったのだが。


「ふむ、なるほど、美味い」
「そうだろう。土産に一つどうだい、安くしとくよ」
「頂こう」


 ……そろそろ私は、あの人を殴ってもいいのだろうか?
 店先で行われている試食に舌鼓を打ち、ホクホク顔で土産を購入している小次郎さんを見ながら、私は一瞬、本気でそんなことを考えていた。


「……何をしているのですか、小次郎さん」
「おぉ、其方らも来たか。ここの菓子は美味いぞ、後で一緒に食うとしよう」
「え、ホンマ? やったー」


 何はともあれ、小次郎さんの下へ向かった私は真っ先に理由を尋ねたのだが、何とも頓珍漢な答えが返って来た。お嬢様は、小次郎さんのその提案に喜んでいたが、私はとてもそんな気分にはなれなかった。
 初日から全く変わらず、自由に過ぎる小次郎さんの行動に、さすがの私も苛立ちが募る。この人は本当にお嬢様を守るつもりがあるのだろうかと、つい疑ってしまうほどに。


「おーい、木乃香ー。ちょっと来てー」
「ん、アスナや、何やろ。二人とも、ちょっと行ってくるなー」


 私が頭を悩ませていると、神楽坂さんに呼ばれて、お嬢様がそちらへと走っていった。見れば、ネギ先生たちも土産物屋にいるので、何か興味を惹かれるものでも見つけたのだろう。
 小次郎さんはそれを見て、別の土産物屋へと移っていった。私もそれに続き、お嬢様がいなくなったのをこれ幸いと、文句を口にした。


「……それで、どういうことですか。なぜ、勝手にお嬢様から目を離したんですか。一瞬の油断が命取りなんですよ」


 多少、目つきや声色が辛らつになってしまったが、小次郎さんの行動を思えば当然のことだろう。
 それを受けた当の小次郎さんは、やはりと言うかなんと言うか、全く堪えた様子もなく、土産物を物色しながら質問に答えた。


「辺りに、敵の気配もしなかったのでな。安全だと確信した故だ」
「だからと言って……気が緩みすぎです、小次郎さんは」
「失礼ながら言わせて貰えば、刹那の方が気を張りすぎに見えるがな」
「……何ですって?」


 油断が過ぎる……その注意への答えは、あろうことか、私への非難だった。
 誰がどう見ても、真剣さに欠けるのは小次郎さんのはずだ。なのになぜこの人は、私の方が悪いような―――まるで、お嬢様を守る必要がない、とでも言うような言葉を放つのか。
 無意識の内に、視線に怒気がこもる。頭に血が上るのが分かる。
 緊張感を保っていないどころではない、この人は身勝手だ。小次郎さんにとって、お嬢様は大事な人じゃないから、こんな事が言えるんだ。
 もう我慢の限界だ―――握りこぶしを作り、辺りの目も構わず殴る決意をする。


「……む。どうやら、誤解を生んでしまったようだな。済まぬ、刹那。今のは言葉が悪かった、許してくれ」


 ちょうど、私がこぶしを振りかぶろうとした時。私の気配の変化を察した小次郎さんが、両手を挙げて降参するような格好をして、謝罪してきた。
 機先を制されたこともあって、とりあえずこぶしだけは収めた私を確認してから、小次郎さんが謝罪の内容を口にしていく。


「私が言いたかったのは、今の刹那には余裕がないということだ。木乃香殿に引っ張られておった時も、木乃香殿より周りへ気を配っておったろう。私にネギに明日菜もおるのだ、もう少し肩の力を抜いてもばちは当たるまい」
「……」


 ―――それは、確かにそうかもしれない。少し冷静になった頭で、そう思った。
 今まで私は、影ながらお嬢様を一人でお守りしてきた。そのためには、常に神経を研ぎ澄まし、近づくもの全てを疑ってかかる必要があった。正直に話せば、始めはお嬢様のクラスメイトですら、お嬢様に害をなすのではないかと見定めていた時期があったほどだ。
 けど、今は一人じゃない。ネギ先生に神楽坂さん、そして小次郎さんがいる。
 とはいえ、ネギ先生はまだ未熟だし、神楽坂さんも身体能力があるだけの一般人だ。信じられるかどうかと聞かれれば、経験が足りないと言わざるを得ないだろう。
 けれど、小次郎さんなら、信じるに足る人物だと言えるだろう。実力はもちろんのこと、考えてみればあの小次郎さんが、文字の先生という恩義のあるお嬢様を軽んじて扱うはずがないのだ。


 少しずつ、頭と考えが冷えていくのを感じる。今となっては、小次郎さんを殴ろうとしていた自分が恥ずかしいくらいだ。
 そして、何より私の頭を冷やし……小次郎さんの言う余裕を与えたのは、小次郎さんが次に放った言葉だった。


「それに、常に神経を尖らせていては疲れてしまい、いざという時の動きが鈍ってしまうと思わぬか。張り詰めた糸は最も切れやすいであろう?」


 聴いた瞬間、デジャヴを感じたその言葉は、あろうことか、先日私が予想していた小次郎さんの言葉と完璧に同じだったのだ。


「ぷっ……た、確かに、そうですね……ふ、ふふふ」


 近いだろうとは思っていたけど、ここまで一致するとは夢にも思わなかった。つい噴き出してしまい、笑い続ける私を、小次郎さんは不思議そうな目で見やってきた。


「……まぁ、理解を得られたのなら、それでいいが。
 そろそろ、木乃香殿の方へ行くとしようか」
「クスクス……はい、小次郎さん」


 持ち前の直感で、何となく私の笑いの意味を察したのか、若干不機嫌そうにしながら、小次郎さんは土産物屋を後にする。私はその後ろを、依然として笑みを浮かべながらついていった。


『あの時は否定したけど、やっぱり神楽坂さんが言うとおり……変な人だな、小次郎さんは』


 大人びているかと思えば、急に子供のような行動をとる。
 真面目かと思えば不真面目にしていて、不真面目かと思えば真面目にしている。
 人の神経を逆撫でる言動をしたかと思えば、逆に気持ちを静めるような言葉もかけてくれる。
 全く一貫性がない、気まぐれとも取れるような人柄だが、決してそんなことはないと断言できる。何となくでしかないが、この人の一貫性は、もっと別のところにあるのだと思うから。


『それがなんなのかは、私には分からないけど……不器用な人だなぁ』


 小次郎さんの後ろを歩きながら、ぼんやりとそんなことを考えた時だった。


「……?」


 ふと、視線を感じた。おもむろにそちらに振り向いてみる。


「―――ふっふっふ」


 そこには、何だか前に見たことのある、凄く嫌な笑みを浮かべた神楽坂さんの姿があった。
 しかもご丁寧に、ネギ先生たちから離れている。


「……小次郎さん、ちょっと先に行っていてください」
「? うむ、承知した」


 急に離れていく私に首をかしげた小次郎さんだったが、特別引き止めることもなく、ネギ先生たちがいる方に向かっていった。それを見届けて、足早に神楽坂さんの下へと急ぐ。


「小次郎先生とのお話は楽しかった、桜咲さん?」


 私が口を開くよりも早く、神楽坂さんは案の定な言葉を口にしていた。多分、さっきお嬢様を呼び寄せたのも、そういう理由によるものだったのだろう。


「……ですから、神楽坂さん。私はそういうのではなくて―――」
「あはは、いいのよ、恥ずかしがらなくて! あんなに楽しそうな桜咲さん、私始めてみたもん! やっぱり私と同じだったのね。嬉しいなぁ、漫画だとよくあるけど、先生に恋する人って実際には少ないからさぁ」
「だから、違うんですってー!」


 誤解を解くどころか、より深めてしまっている神楽坂さんに、思わず叫び声を上げてしまったのは、無理のないことだろう。


「……ふむ、仲がいいのは、良いことだ」 


 どこからか、能天気な言葉が聞こえた気がした。










 ―――それからしばらくして、私たちは、げーむせんたーなる場所へとたどり着いていた。


「これはまた……随分とやかましいな」


 店の前で立ち尽くし、率直な感想を漏らした。
 いくつもの機械から溢れる音が混ざり合い、ガチャガチャと判別のつかぬ音が、このげーむせんたーからは溢れている。店先でこれなのだから、店内に入ってしまえば、これの倍近い音量が鼓膜を突くことだろう。
 ちょうど、携帯電話の音を何十倍にもすれば、こうなるのかも知れぬ。
 うっそうと立ち並ぶ機械の郡は、いつか訪れた葉加瀬殿の研究室を思い出させる。


「それで、早乙女殿。先に申した、ぷりくらなるものは、どういう代物なのだ」
「ぷ、プリクラも知らないんですか? えーと……何種類かの写真を撮るものですよ。撮った後は色々とデコレーションできて、同じものがシールで何枚も印刷されるから、撮った人皆で持ち合えるんです」
「ふむ……」


 『ぷりくらを撮ろう』と発案した早乙女殿に、それがどういうものなのかの説明を求めたが、カメラに類するものであること以外に得心は行かなかった。


「えっと……それじゃあ実際にやって見せますね―――ほら、のどか! さっさとネギ先生とプリクラ撮っちゃいなさいよ!」
「あ、え……けど、その……」
「いーから、ほらほら! ネギ君を待たせるんじゃないの!」


 私が理解しておらぬことを察した早乙女殿は、ネギと宮崎殿に実演させるといって、二人をぷりくらの中に押し込んでいた。宮崎殿はなにやら渋っておったが、それも意に介さぬ強硬手段であった。
 それからしばらく、ネギと宮崎殿は中から出てこず、予想通り耳を劈く音に顔をしかめながら、ぷりくらが終わるのを待った。
 中から二人が出てくると、ぷりくらの外側に添えられていた画面に向かい、何かの操作を始めた。それが最後の仕上げだったのか、操作を終えると、近くの穴から紙らしきものを取り出しておった。
 紙を受け取った早乙女殿が、私の下へと戻り、それを見せてくれる。


「ほら、こんなのができるんですよ」
「ほう……これはまた、鮮やかであるな」


 紙には、四種類の写真が等しい大きさで四枚ずつ印刷されておった。四種のどれもこれにも、やや恥ずかしそうにしておるネギと宮崎殿が違った背景と格好で映っており、また花やら星やら文字やらで、全て異なった装飾が施されていた。


「で、これをこういう風に―――」
「え、あ―――な、何してるのハルナー!?」


 そして、早乙女殿はおもむろに宮崎殿から携帯電話を奪うと、電池のかばーを取り外し、その裏に写真の一枚を貼り付けた。なるほど、ああして張り付けることで、好きなときに写真を見れるということか。
 だが、宮崎殿が顔を真っ赤にしてすぐさま奪い返したのを見る辺り、正しい使い方ではないのであろうか? いまいちよく分からぬ。


「せっかくだから小次郎先生も撮ってみたらどうですか? 何事も経験ですよ」
「ふむ、そうだな……物は試し、やってみるとしよう」
「あ、ほしたらウチ一緒に撮るわー。せっちゃんも一緒に撮ろー!」
「え、あ、お嬢様!?」


 分からぬことを知るには、自分で体感するに限る。それが未知の文化であればなお更だ。早乙女殿の提案を受けて、ぷりくらに挑戦することを決めた。
 ありがたいことに、木乃香殿が共にぷりくらを撮ってくれるというので、分からぬことは遠慮なく質問させてもらうとしよう。
 木乃香殿に抱きつかれ、狼狽したまま引きずられていった刹那と共に、厚めの幕を潜りぷりくらの中へと入った。


 ぷりくらの中は、予想と違い簡素なものであった。床と壁は白で統一されており、蛍光灯の灯りも加わって目に痛いほどの明るさを放っている。先のネギと宮崎殿の写真には、多種多様な色の背景が映されておったが、あれはどういった原理でああなったのであろうか。


「ほーら、そろそろ撮るえ小次郎さん、せっちゃん」


 忙しなく隅々を見渡している私と、居心地悪そうにそわそわしている刹那に苦笑いを浮かべた木乃香殿が、硬貨を投入口に入れながら言った。
 すると、操作の案内をするような音声がぷりくらから流れ始めたが、画面に向かっている木乃香殿はそれを無視して操作を進めていく。まるで次に何を選ぶか知っているように、淀みない指の動きだ。後ろから画面を覗き込んでいたが、何をしているのか理解できぬまま、木乃香殿は全ての操作を終えてしまった。


『それじゃあ、撮りまーすっ』


 撮影が始まることを、ぷりくらの音声が告げる。


「はい、小次郎さんはここで、せっちゃんはここなー」
「むっ?」
「お、お嬢様っ!?」
「そんでもって、ウチはここー」


 その瞬間、木乃香殿が私と刹那の腕を取り、望む位置に私たちを引き寄せると、自分の腕と絡めてしまった。
 ちょうど、木乃香殿が中心になり、その両脇を私と刹那が固めている形だ。


「木乃香殿? 私は未だ、このぷりくらというものの勝手が分からぬのだが……」
「あそこのカメラに向かって、笑ってピースすればえぇんやよ。みんなで一緒に、ピース!」
「ふむ……ぴーす、と」
「え、えっと……こ、こうですか?」
「そーそー」
『3、2、1―――』


 私と刹那が木乃香殿に倣い、ぎこちなくぴーす―――人差し指と中指を立てた形だ―――をした時、パシャリ、とカメラが鳴る音がした。
 今まで木乃香殿が操作していた画面に、先の私たちの姿が映し出される。


「ふむ、己が画面の中にいるとは、相も変わらず面妖な……」
「あん、せっちゃんの笑顔固いわー。もっと笑わなあかんえ」
「は、はぁ……申し訳ありません」
「次はウチと二人で撮ろうなー」
「えっ……うわぁ!?」


 ぴーすしておる自分を、顎に手を当てながら何とも言えぬ心持で眺めておると、隣から刹那の悲鳴が上がった。何事かと隣に顔を向けてみると、木乃香殿が刹那に抱きついていおった。
 両手で刹那の片腕にしがみ付いている木乃香殿の表情は、何とも幸せそうである。やはり刹那とこうして遊べるのが嬉しいのであろう。仲人を引き受けた身として、同じく嬉しく思う。
 まぁ、当の刹那は、顔を真っ赤にして狼狽しておるのだが。
 一歩引き、仲睦まじい二人の邪魔をせぬよう務める。


『3、2、1―――』


 先と同じ音声が流れ、カメラが鳴る音が響く。
 撮影されたものを確認すると、木乃香殿が次の撮り方を指示してきた。


「小次郎さんとせっちゃんは並んで座ってや。で、ウチは二人の後ろの真ん中ー」
「お、お嬢様……あまりくっつかれては」
「まぁ、いいではないか。そら、笑顔でぴーすだぞ刹那」


 私と刹那の肩に肘を置き、木乃香殿が再びカメラに向かってぴーすをする。変わらず顔を赤くしておる刹那に、苦笑いしながら言葉を告げた。
 三度カメラが鳴った。いい加減慣れたもので、笑顔も自然なものになってきている気がする。刹那のは、以前として固い印象があるが。


『次が最後だよ。最高のポーズで決めてねー!』


 四度に渡った撮影も、次で最後のようだ。木乃香殿は一体どのような構図を望むのであろうか。


「最後かー。ほしたらー、小次郎さんが真ん中や。んで、ウチとせっちゃんはー―――えいっ」


 可愛らしい掛け声をあげた木乃香殿であったが、その行動は、私と刹那の度肝を抜いてきた。


「こ、木乃香殿?」
「お、お嬢様、何を!?」


 言われたとおり、二人の間に移動した私の腕に、木乃香殿が先の刹那にしたように抱きついてきたのだ。さすがにこの行動は予想外であり、声が上ずってしまったのも致し方あるまい。
 僅かに、女子特有の甘い香りをかいだ気がした。


「ほら、せっちゃんも反対側に抱きついてや。それで三人でピースするんや」
「え? わ、私もですか!?」


 更に木乃香殿は、己と同じ行動を刹那にも要求し始めた。まさかそんなことを言われると考えていなかっただけに、刹那の驚きようは今までで最も大きいものであるように見える。
 木乃香殿と刹那が私の両手に抱きつけば、両手に花という構図に見えなくもないが……了解も取らず前触れなくする、というのは勘弁して欲しい。


「あん、早ぉせんと、時間なくなるえ?」
「い、いえ、流石にそれはその……恥ずかしいというか」
「木乃香殿、あまり無理を言うものではあるまい……」


 木乃香殿は再三せかすが、男に抱きつくことに抵抗のある刹那は、私から距離を取ったところでもじもじと躊躇っておる。いかに仲を取り持つ約束をしておる私でも、これは刹那を助けぬ訳には行かぬと思い、助け舟を出した。


『3、2、1―――』


 そうこうして、刹那が恥ずかしがっておるうちに最後の写真を撮られてしまい、締まりのない終わりとなってしまった。
 外にでた後、撮った写真に木乃香殿が装飾を施していく。見る間に美しい写真が仕上がっていき、数分後には、ネギの時と同じ穴から完成品が取り出された。


「うむ、綺麗に仕上がっておるな」
「えへへー、初めてのプリクラやな、せっちゃんっ」
「そ、そうですね……」


 仕上がったぷりくらを三人で見た後、誰も鞄を持っていなかったので、ぷりくらは私が懐に入れて保管することになった。
 辺りを見渡すと、他の皆の姿はなかった。私たちがぷりくらを撮っておる間に、どこか別のところへ移動したのであろう。
 三人で移動しつつ皆を探しておると、一箇所に固まっている皆を発見した。
 どうやらネギがげーむに興じておるようで、それを皆で応援しておるようだ。様々な騒音が入り混じるげーむせんたーの中で、早乙女殿や綾瀬殿の声が耳に入る。


「何をしておるのだ?」
「あ、小次郎先生! 今、ネギ先生が地元の子と対戦してるんですよ!」
「ホンマか? ネギ君がんばれー」


 なるほど、やけに皆の声が大きかったのは、そういう理由であったか。話を聞いた木乃香殿は、すぐさまネギの応援に回っていた。
 他の物よりも殊更に大きい機械に向かい、遊びに興じておるネギの姿は、年相応のものに見えた。
 詳しい取り決めこそ分からぬが、激しい光や魔獣が飛び交う画面を興味深く眺めている間に、決着がついていた。


「あー、負けたー……」
「いやぁ、初めてにしてはよくやってたよ、ネギ先生」


 何がどうなったのか、ネギが敗北したようだ。だが、初めてにしてそこそこの結果を残したのならば上々であろう。


「―――そやなぁ」


 ネギの隣の席に座っていた者が、一言呟きながら腰を上げた。


「なかなかやるなぁ、あんた。でも……魔法使いとしてはまだまだやなぁ、ネギ・スプリングフィールド君」


 口ぶりからして、この者がネギと対戦していた者なのであろう。
 見かけ年がネギと同じ程度と思われる少年は、黒い学生服を着ている。頭がすっぽり隠れる帽子を額の辺りまで被っており、後頭部からは一本に結った髪が垂れていた。



「え、うん、どうも……あれ? ど、どうして僕の名前を!?」
「だって、ゲーム始めるとき自分で入れたやろ」
「あ、そっか」
「ほな、俺はそろそろ帰るわっ」
「あー! 勝ち逃げはズルイよー!」


 いくらか言葉を交わすと、少年が逃げるようにこちらへ向かって走り出した。その視線は依然背後のネギたちに向いており、私には気づいていないようだ。
 このままでは正面衝突してしまうので、一歩横にずれる。


「おっと! 兄ちゃん、ごめんや」
「……うむ、元気なのはいいが、前にも気をつけよ―――む」
「おわっ!」


 私が動いたことで向こうも気づいたのか、飛びのくように私を避けて、少年が走りながらこちらに向かって謝ってくる。先と同じ状況になってしまい、再び前を向いておらなかった少年は、宮崎殿と正面衝突してしまった。


「なはは、ごめんな姉ちゃん。パンツ見えとるでー」
「―――!?」
「慌しい少年だ……」
「小次郎先生、小次郎先生」


 去り際に残された少年の言葉に顔を赤くした宮崎殿を見て苦笑いを浮かべておると、明日菜が小声で私の名を呼んできた。
 顔をそちらに向ければ、人差し指を口の前で立てている明日菜の姿。


「他のみんながゲームに集中し始めたから、私とネギ、今のうちに抜けちゃいます」
「承知した。木乃香殿のことは、私達に任せよ」
「はい、よろしくお願いします、小次郎さん」


 そう言い残し、素早くげーむせんたーを駆け出していった二人を見送り、私はげーむに興じておる皆の下へ、足を向けるのであった。












 後書き
 内定ktkr! このご時世に勝ち組に入った逢千です。  4月におけるリクナビの調べでは、全国の就職内定率大よそ1割。恐ろしい世の中です。
 何はともあれ、今回のお話、いかがだったでしょうか。
 小次郎も木乃香も、共にフリーダム。そして二人に振り回される刹那。うむ、久しぶりに弄った気がする。書いてて実に楽しかった。
 プリクラを撮る小次郎というのは、きっとどこの二次創作にもなかった展開だろうと自負しておりますが、いかがだったでしょうか。そして木乃香に抱きつかれる小次郎。きっとどこかの夫氏が激怒していることでしょうが、私の知ったことではない!(マテ
 感想・指摘等々、お待ちしております。
 では。


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