風のない夜、雪がゆらゆらとたゆたいながら空から降ってくる。縁側に座る私の眼下には、とっくのとうに白く染まった中庭があり、あちらこちらから冬の顔を見せていた。


 猪口に入っている熱燗を飲み干し、充足の息を吐く。吐いた息は中庭と同じく真っ白に染まっており、しかし直ぐに夜空へと解けていった。冬の冷たい空気が容赦なく肌を刺すが、酒の入ったこの身には丁度いい刺激であろう。


 澄んだ空気の中、都合のいいことに月が雲の隙間から姿を見せていた。雪と月。これに花も加われば、文句のつけようなどあるはずもなかろう。


「まぁ、六百年物の花がある、それで良しとするか」


「何を言う。花なら貴様の頭の中にいつでも咲いているだろうが」


「はっはっは、これは上手いことを言う。茶々丸、エヴァに座布団を一枚やってくれ」


「……花どころか春真っ盛りだったか」


 縁側で共に酒を飲んでいたエヴァと軽口を言い合う。特につまむものはなかったが、風景と軽口、そして背後から聞こえてくる音を肴として、私たちは酒を飲んでいた。


「うおっしゃー、飲め飲めーパルー!」


「まっかせなさーい! コーラ二リットル一気飲みー!」


「きゃははー、お家広いですー!」


「んー、料理美味しいアルー」


「…………あんたたち少しは自重しなさーい!!」


 今日は十二月二十四日。クリスマスと呼ばれる日。私たちの背後の居間では、3−Aの女子らが過去に例を見ぬ乱痴気騒ぎを繰り広げていた。誰も彼もが思い思いにはしゃいでいる中、明日菜だけが皆を諌めようとしていた。


「ククッ、いつもながら凄まじい活力よな。死人が出なければいいが」


「未成年のパーティで出るわけがないだろう―――と言い切れない辺りが、こいつらの困ったところだな」


 二人、喧騒を遠目に眺めながら、一見した感想を漏らす。エヴァの口にした言葉に、全くだ、と苦笑いを浮かべながら同意した。


 茶々丸が酒の追加と、台所からつまみを持ってきてくれた。礼を言いながら、依然エヴァと会話を続けていく。


「しかし、よくあいつらに家を貸すつもりになったな。あいつらに貸したが最後、宴の後が惨劇になるなど想像に容易いだろうに」


「なに、普段は無用の長物とも言える広さを持ったこの家が有効活用されるというのだ、いいことではないか。むしろ、こうして誰かの声が響いておる方が、この屋敷も幸せであろう」


「そうですね、私もそう思います」


 私の答えに対して、すかさず茶々丸が同意をしてくれる。二対一となって不利になったエヴァは、私は片付けの手伝いなどせんぞ、と言って酒を呷った。


 視線を居間から中庭の方に移し、夜空を見上げる。依然として月はその全貌を顕にしており、値千金の情景を私の視界に映し出していた。


「にゃ〜」


 見事な風景を楽しんでおると、愛花が私の膝の上に上って来た。何か用であろうかと思いながら好きにさせておると、胡坐の中に身を納めてしまった。そのままもぞもぞと何度か身じろぎし、具合のいい格好を見つけると、深い息を吐いて目を閉じていた。


「……ふふ。何だ寒いのか? ならば炬燵に行けばよかろうに」


 仕方のない愛猫に微笑みながら、体を二度三度と撫でてやる。特に何の抵抗もせず、愛花は静かな寝息を立てていた。


 ……麻帆良に住み着いてから初めての年越しが近づいている。まだこの世界に蘇ってから一年も経っていないが、何とも充実した毎日を送ることができていると思う。それが証拠に、私は今笑顔で、美味い酒を飲めているのだから。


 居間の方で、木乃香殿が笑っている。刹那はそんな木乃香殿に振り回されて少し大変そうだ。それでも刹那も、この状況を楽しんでいるのだろう。


 きっと次の年も、そのまた次の年も、こうして過ごすのだろう。


 そのまた次の年は……少し分からぬ。恐らく、その時にはその時の風が吹いているであろうから。


 分かることは唯一つ。私はこれからも、この世界で生きていくのだ―――












 後書き


 皆様、メリークリスマス。北海道では雪が降りしきるこの夜、いかがお過ごしでしょうか。一人家で過ごしている逢千です。


 一応、クリスマス記念に書いたこのお話。時期がクリスマスというだけで、話になんの関連もなければ、山も落ちもありません。それでも皆さま(私と同じ境遇の人)の暇を少しでも潰せれば幸いです。


 こんな風に順風満帆に人生を謳歌できたら、どれだけ素敵なことか。自分で書きながら、少し小次郎に嫉妬したりしつつ、ここらで失礼します。


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 では。


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